事業者に求められる「合理的配慮」とは?
この春、民間企業の法定雇用率が2.3%に引き上げられました。
障がい者のさらなる社会参加への動きが進められています。
その中で現在事業者に対し、障がい者への「合理的配慮」が求められています。
合理的配慮とは何でしょう?
それは、障がい者の人権が障がいのない人と同じく保障されると同時に、社会で活躍する上で支障となる障がいや状況を取り除くために実施する配慮のことです。
対象は障害者手帳を持っている方だけに限りません。
心身の障がいのために、就業に支障が出ている・就業が困難な状況にあって社会に出ることができない方も含まれます。
事業者が障がい者を雇用するにあたって課せられている義務や、合理的配慮を実施プロセス、そして具体的な配慮事項についてお伝えします。
①事業者の義務
2016年の改正障害者雇用促進法により、障がい者を雇用する事業者に対して「合理的配慮の提供」が義務付けられました。
これを、募集・採用段階と採用後に分けて考えてみます。
まず募集や採用の段階では、障がい者が障がいのない人と就労の機会が等しく設けられることが求められます。
例えば、聴覚障がいを持つ方の採用試験には筆談を使用したり、肢体不自由の方は面接会場を近くに設定して身体への負担を減らすようにすると 言ったことです。
そして採用後には、職場にてその人が持つ能力を発揮してもらうために、支障となる部分への配慮(改善・調整)をすることが必要です。
また、待遇においても理不尽な差別がないよう求められています。
なお、これらの実施は事業者の「過重な負担」にならない程度に行うとされています。
例えば事業への影響が大きかったり、実現可能性が極端に低いと、「合理的」ではないと判断します。
この場合には、本人に事情を説明をし、可能な限り代替案をもって配慮の実現を試みることが必要になります。
②実施プロセス
1.本人が必要としている配慮を把握する
就業に際して支障となる部分と、それに対する必要な配慮を聞き取ります。
本人だけでなく周囲の人物(本人が利用している支援機関・エージェント等)からの情報も有効です。
できるだけ具体的に確認することで、このあとの流れがスムーズになります。
2.社内での検討
本人が必要としている配慮に対して、社内でどのように実施するかを検討します。
都度本人と相談をしながら検討を進めていきます。
3.配慮事項の確定をさせる
本人の意向を尊重しつつ、配慮内容を確定させます。
4.実施していく中で、定期的な見直し・改善を図る
社内には常に相談体制を整えておくことが必要です。
本人の意思表示と事業者の障がい理解が合わさることで、双方にとってよりよい配慮の提供に繋げることができます。
事業者は、常に障がい者の声に耳を傾けることが大切です。
③障がい種別ごとの配慮事項
企業によっては、障がい者にどんな配慮をすればよいのかわからない、受け入れ態勢に自信がない と言った声も多く聞かれます。
以下では障がい別に、よく聞かれる配慮項目を挙げています。
身体障がい
・上肢または下肢の機能障がいによって満員電車での通勤が難しい場合、時差出勤または在宅勤務を許可する
・心臓機能障がいで心臓に負担をかけないよう、重量物の運搬を避ける
・杖歩行の場合、事業所の導線の見直し・調整を行う
・視覚障がいの場合、拡大文字や音声読み上げソフトを導入する
精神障がい
・障がいの発症原因である業務を極力避ける
・体調に応じて、出勤や退勤の時刻を調整しやすくする。また、服薬は休憩時間で、通院は休暇でなど、柔軟に対応する
・本人の合意のもと、周囲の従業員に障がいについて伝え、双方コミュニケーションをとることで理解のズレをなくす
・マルチタスクが苦手な発達障がいの場合、指示は一つずつ出すようにする
・作業の抜け漏れが多い場合、すぐに確認できる担当をつける
知的障害
・作業をマニュアル化し、業務理解を進めやすくする
・抽象的な指示や表現を避け、簡潔にわかりやすい説明をする
・業務量は本人の習熟度を見ながら増やしていく
上記は一例となります。
診断名は一つでも、症状の程度は人それぞれです。
障がいによって異なる困難が生じますが、そのときに応じて必要かつ実現可能な配慮内容を検討・実施していきましょう。
④まとめ
障がいがある人も無い人も、平等に働く権利があります。
障がいがある人が今よりも更に社会で活躍できるようになるためには、今回ご紹介した「合理的配慮」がカギを握っています。
相互理解を深めながら実施していくことが大切です。