ICFとはどんなもの?介護の現場でどう活用できる?ICDHとの違いについても解説
介護職に就いている方は、「ICF」という言葉をよく見かけるのではないでしょうか。
しかし、なんの略称であるか、また具体的な意味がよくわからないと思う方も少なくないはずです。
そこで本記事では、ICFの概要や目的、生活機能モデルに関して詳しく解説します。
本記事を読むことで、ICFの生活機能モデルや介護の現場での具体的な活用方法について理解できるでしょう。
1. ICFとは
ICFとは、「International Classification of Functioning, Disability and Health」の頭文字を取ったもので、日本語では「国際生活機能分類」と訳されます。
2001年にWHO(世界保健機関)総会で、「健康に関連する生活機能と障害についての分類」として提唱されました。
ここではICFについての理解を深めるため、以下では考え方や目的を詳しく解説します。
■ICFの考え方
ICFの考え方は、人が生きること全体の姿を生活機能と捉え、本人の残された能力の増大を図るというものです。
生活機能には、食べる、寝る、歩くなどの基本的な動作だけではなく、学校や職場などの社会的な環境や人間関係なども含まれます。
■ICFの目的
ICFの主な目的は以下の3つです。
● 健康に関する状況、健康に影響する因子を深く理解するため
● 健康に関する共通言語の確立で、さまざまな関係者間のコミュニケーションを改善
● 国、専門分野、サービス分野、立場、時期などの違いを超えたデータの比較
引用:第1回社会保障審議会統計分科会 生活機能分類専門委員会 参考資料
目的を一言で表すと、「生きることの全体像」を示す「共通言語」 です。
ものの捉え方は人によって異なるため、たとえば車椅子を使用している利用者に対して、「車椅子だと行きたい場所に行けない」や「車椅子なら安全に移動できる」のように、担当するスタッフによって認識の違いが発生してしまう可能性があります。
ICFは共通言語を利用して、このような認識の違いをなくすことを目的としています。
2. ICFの生活機能モデルについて
ICFの生活機能モデルは、以下で解説する6つの要素で構成されています。
6つの要素は互いに影響を与え合っているため、個々ではなく全体を見て考えることが大切です。
■生活機能
生活機能を構成する3つの要素について詳しく見ていきましょう。
・心身機能・身体構造
心身機能・身体構造とは、生命の維持に直接関係する機能や構造のことです。● 心身機能:手足の動きや五感、内臓の働きなど
● 身体構造:皮膚や胃腸、指の関節など
・活動
活動は、日常生活における具体的な行動を指しています。歩行や入浴、食事、衣類の着脱などの基本的な動作はもちろんのこと、仕事や余暇活動、家事なども含まれます。
・参加
参加とは、社会環境に身を置き、何らかの役割をもつことです。具体的には、家庭における主婦の役割、職場では従業員の役割などが該当します。
なお、参加の範囲は幅広く、趣味やスポーツなどのコミュニティへの参加や文化的・政治的・宗教的な集まりへの参加なども含まれます。
■背景因子
以下では、背景因子を構成する2つの要素を詳しく解説します。
・環境因子
環境因子とは、その人を取り巻く環境のすべてです。● 物的環境:天候や交通機関など
● 人的環境:家族や友人、介護スタッフなど
● 制度的環境:法律や規則など
・個人因子
個人因子とは、その人固有の特徴のことです。年齢や性別、民族などの基本的な特徴だけではなく、学歴や職歴、価値観など、その人を形成している特徴はすべて個人因子に分類されます。
■健康状態
健康状態とは、病気やけが、障害の有無などを指したものです。
その他、肥満や妊娠、ストレス状態などの体調の変化も健康状態に分類されます。
3. 介護の現場でICFはどのように活用できる?
介護の現場におけるICFの具体的な活用方法について解説します。
■ICFで必要な介護がわかる
介護の現場でICFを活用すると、利用者の必要な介護がわかります。
先述したICFの生活機能モデルを使用して利用者一人ひとりを分析することで、新たな課題やこれまで見えていなかった問題点などの発見につながる場合があるためです。
利用者のできることやプラス面に着目することで、よりよい介護サービスを提供できます。
■情報共有に役立つ
ICFは生きることの全体像を示す共通言語 であるため、情報共有に役立ちます。
利用者の状況を共通の視点で捉え、より適切な介護サービスの提供につながるでしょう。
4. ICFの評価点・コードの見方
一人ひとりの生活機能を示す際には、評価点が用いられます。
評価点はさまざまな立場の人が共通した認識をもてるようコード化することが可能です。
以下では、ICFの評価点とコードの見方を解説します。
■評価点について
評価点は生活機能の問題点を記録するために使用されるものです。
ICFの評価点には第1・第2評価点があり、任意評価点として第3・第4評価点が付く構成要素もあります。
なお、評価点は構成要素によっても異なりますが、9段階で記載されます。(下記表参照)
■ICFコードの見方について
ICFコードは、それぞれの項目の評価点をアルファベットと数字で示します。
具体的には「d4500.1203」のように表示され、コードを見ることによって、活動と参加の領域中で運動・移動について表していることがわかります。
「d」は、活動と参加の領域を英語で表しています。
「4500」の数字部分は機能の項目である「運動・移動」と具体的な動作、「.1203」は第1〜第4評価点までを示しています。
このICFコードを検索システムにかけると、その人の状態を簡単に把握することが可能です。
・評価点とコードの見方
構成要素 | 第1評価点 | 第2評価点 |
心身機能(b) | 否定的スケールによる共通評価点であり、機能障害の程度や大きさを示す。 例:b167.3は言語に関する精神機能の重度の機能障害を意味する。 |
なし |
身体構造(s) | 否定的スケールによる共通評価点であり、構造障害の程度や大きさを示す。 例:s730.3は上肢の重度な構造障害を意味する。 |
各々の身体構造の変化の性状を示すために用いられる。 0:構造に変化なし 1:全欠損 2:部分的欠損 3:付加的な部分 4:異常な大きさ 5:不連続 6:位置の変異 7:構造上の質的変化(液の貯留を含む) 8:詳細不明 9:非該当 例:s730.32は上肢の部分的な欠損を表す。 |
活動と参加(d) | 実行状況 共通評価点 その人の現在の環境における問題 例:d5101.1は、その人の現在の環境において利用可能な補助用具を使用して、全身入浴に軽度の困難があることを意味する。 |
能力 共通評価点 介助なしでの制限 例:d5101.2は、全身入浴に中等度の困難がある。これは福祉用具の使用または人的支援がない場合に中等度の活動制限があることを意味する。 |
環境因子(e) | 共通評価点であり、阻害因子と促進因子とのそれぞれの程度を示す、否定的スケールと肯定的スケールとからなる。 例:e130.2は、教育用の生産品と用具が中等度の阻害因子であることを意味する。逆に、e130+2は教育用の生産品と用具が中等度の促進因子であることを意味する。 |
なし |
5. ICFとICIDHとの違い
ICFと似ている言葉にICIDHがあります。
以下では、ICIDHの概要とICFとの違いについて見ていきましょう。
■ICIDHとは?
ICIDHは、「International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps」の頭文字を取ったもので、日本語では「国際障害分類」と言います。
ICFの前身となった医療基準で、1980年にWHOによって発表されました。
ICIDHは一言で表すと「障害の階層性」を示したもので、ICFとは違い、障害のみに注目しているのが特徴です。
■ICIDHと比較したICFの特徴
障害を客観的な視点からネガティブに捉えるICIDHに対し、ICFは障害を多方面な視点からポジティブに捉えるという真反対の考え方です。
ICIDHでは外形的・客観的な障害しか扱われていませんでしたが、ICFが採択されてからは個人の主観や取り巻く環境なども考慮されるようになりました。
また、障害のある人に限らずすべての人が対象となったため、教育や経済などでも活用されています。
6. まとめ
ICFは、2001年にWHO総会で、「健康に関連する生活機能と障害についての分類」として提唱されました。障害のみに着目したICIDHとは違い、個人の主観や内面、取り巻く環境などの多方面から個人を分析できます。
ICFを介護の現場で活用することで、介護サービスの向上や情報共有に役立てることができるでしょう。