機能訓練指導員とはどんな職業?仕事内容や勤務先のほか、給料についても紹介
介護福祉施設などで行われるのは、利用者の送迎や介助だけではありません。
利用者が自己の身体機能や能力を維持・増進することも大切な介護サービスの一つとされています。
そこで活躍を期待されるのが、機能訓練指導員という職業です。
今回は、機能訓練指導員とはどのような職業なのか、仕事内容や勤務先、給料について触れながら解説。
現在介護職への就職・転職をお悩みの方や興味をお持ちの方は、ぜひ今後の参考にしてください。
1. 機能訓練指導員とは?
機能訓練指導員とは、介護保険法により介護施設への配置が明確に定められた、機能訓練・リハビリの専門家のこと。
特別養護老人ホームなどの利用者一人ひとりに応じた機能訓練を行い、身体機能や健康状態の減退防止・回復を図ります。
つまり、要介護者が可能な限り自分で身の回りのことを行えるよう、支援するのが最大の目的です。
現行の法律では、介護福祉施設などに1人以上の配置が義務付けられており、近年ささやかれている介護サービスの重要性や品質向上の観点から見ても、機能訓練指導員は今後ますますの活躍が期待されるでしょう。
2. 機能訓練指導員の仕事内容
機能訓練指導員の仕事は、介護施設利用者のリハビリ支援だけではありません。
生活環境や身体機能といった利用者本人の状態を把握し、必要な訓練を見極めることから始まります。
また、機能訓練・リハビリは集団でも行い、施設全体における利用者の身体機能向上に寄与しています。
■機能訓練計画書の作成
まず利用者の機能訓練を始める前に、機能訓練計画書を作成します。
機能訓練計画書とは、利用者が抱えている心身の課題や日常の動作問題を改善するため、ケアプランや家族の意向も加味して作られる計画書のこと。
利用者の基本情報のほか、訓練の目的や項目、アフターフォローの方法などが内容として盛り込まれ、看護職員・介護スタッフ・生活相談員といった複数の存在によって考案されます。
■個別リハビリ
機能訓練指導員は自身で作成した機能訓練計画書に基づき、利用者一人ひとりと個別リハビリを行います。
利用者の個別リハビリは、身体機能の現状維持が主な目的です。
他の介護スタッフがプログラムを行う場合もありますが、必ず3か月に1度、機能訓練指導員が訓練の進捗状況や利用者の様子に応じて、機能訓練計画書の見直しを行わなければなりません。
改定を重ねて機能訓練の質を向上させることで、利用者にとってよりプラスとなる個別リハビリを実現していくのです。
■集団リハビリ
集団リハビリは、介護施設で過ごす利用者全体の身体機能を強化することが目的です。
機能訓練指導員が先導し、利用者全員で体操や筋力トレーニングを行います。
心身の調子を整えられるほか、施設の仲間と交流しながら訓練することで、個別リハビリへのスムーズな移行を図る効果も期待できるでしょう。
3. 機能訓練指導員になるには?
機能訓練指導員になるには、次に挙げる基礎資格のうち、いずれかを取得している必要があります。
ただし、機能訓練指導員という名の資格があるわけではないため、注意しましょう。
● 看護師または准看護師
● 理学療法士
● 作業療法士
● 言語聴覚士
● あん摩マッサージ指圧師
● 柔道整復師
● 鍼灸師(しんきゅうし)
どの資格も養成学校での勉学と国家試験の合格が必須であり、取得までに数年間を要します。
また詳しくは後述しますが、資格によって機能訓練指導員としての働き方も異なるため、自分の能力や理想とする支援のあり方に応じて選択するとよいでしょう。
■改定により追加された鍼灸師について
上記の資格のうち鍼灸師は、平成30年度の介護報酬改定によって新たに追加された任用要件です。
少なくなりつつあった機能訓練指導員の確保と、施設利用者のさらなる心身機能の維持・向上を促すために認められました。
ただし、鍼灸師が機能訓練指導員として勤務するためには条件があります。
鍼灸師の資格取得後は、他6つの機能訓練指導員が勤務する施設で、6か月以上の実務経験を積まなければなりません。
資格を取得してすぐに機能訓練指導員として勤務できるわけではないため、注意しましょう。
4. 保有している資格別の機能訓練指導員の仕事内容
一口に機能訓練指導員とは言っても、保有する基礎資格によって仕事の内容は若干異なります。
ここでは資格ごとの仕事内容について解説するため、今後の参考にしてください。
■看護師または准看護師
看護師または准看護師の場合、医学の知識を活かした機能訓練を実施します。
利用者の体調管理や病気の予防、けがの手当てなどが主な仕事内容。
デイサービスなどの通所型介護施設では、看護師として兼務・配置されることもあるでしょう。
資格を取得したばかりでは機能訓練やリハビリの知識と技術が浅いため、実際に機能訓練指導員を務めながら経験を積む必要があります。
■理学療法士
理学療法士は、けがや病気で歩く・立つなどの運動機能が低下した利用者に対し、医学的リハビリテーションに基づいた機能訓練を行います。
日常生活に必要な運動・動作機能の回復と悪化の防止が目的であり、運動療法や物理療法の知識を活かせるのが特徴。
■作業療法士
作業療法士は、入浴・食事・排泄・掃除・読書・字を書くといった応用動作のリハビリを行います。
基本動作の回復を促す理学療法士と比べ、比較的軽度な障害のある利用者が対象です。
加えて、レクリエーションや創作活動などの心理的リハビリテーションも実施し、利用者が心身ともに健康であるように支援を行います。
■言語聴覚士
言語聴覚士は、言語や聴覚などの言葉によるコミュニケーションが難しい利用者のリハビリテーションを担当します。
また、言語障害に伴って起きる、食べたり飲み込んだりなどの嚥下(えんげ)機能の低下を回復させるのも重要な職務のひとつです。
■あん摩マッサージ指圧師
あん摩マッサージ指圧師は、利用者の体に起きる肩や首のコリ・腰痛・筋肉のハリといった不調の軽減を目的に、マッサージや指圧療法を用いた機能訓練を実施します。
また問診や検査も行い、不調の原因究明や運動機能回復のための支援を行うのが特徴。
■柔道整復師
柔道整復師は、整復や固定などの手技で、骨折・捻挫・打撲・脱臼といった外傷をケアします。
高齢者の利用も多い整骨院や接骨院での実務経験があれば、機能訓練指導員としても活躍できるでしょう。
■鍼灸師
鍼灸師は、はりや灸によって筋肉のハリやコリから来る体の痛みを緩和します。
こうした鍼灸師としての技術と知識は、機能訓練においても大切です。
5. 機能訓練指導員の勤務先はどんな場所?
機能訓練指導員の勤務先は、大きく分けて介護福祉施設と要介護者向け医療施設の2つです。
施設によって利用者の特徴や業務内容が異なるため、働き方を考えるうえでポイントの一つとしてみましょう。
■介護福祉施設
機能訓練指導員は、特別養護老人ホームやデイサービス、有料老人ホーム、ケアハウスなどの介護福祉施設にとって、介護サービスの品質向上に値しうる非常に大きな存在です。
いずれの施設においても機能訓練が業務の大半を占めますが、利用者の日常生活自立度によっては、リハビリの目的が異なったり他の業務を担ったりする場合があります。
たとえば、特別養護老人ホームでは比較的介護度の高い利用者が多いため、リハビリによって運動機能の向上を目指すというよりも、日常生活でできることを増やしていくことが狙いです。
また、場合によっては機能訓練以外にも送迎や身体介護、レクリエーションなどの業務を行うことも。
体の自由が利きやすい要介護者を支援するデイサービスの場合、できる限り日常生活での自立を目的とした機能訓練を行うことになるでしょう。
■要介護者向け医療施設
介護老人保健施設や介護療養型医療施設、病院併設型リハビリテーションなどの要介護向け医療施設でも、機能訓練指導員は必要とされています。
一般的な介護福祉施設と比べ、日常生活自立度の低い高齢者を対象としているのが特徴です。
こうした施設では、利用者一人ひとりに応じた訓練計画を立て、細やかな配慮をしながら機能訓練を行うことが求められるでしょう。
6. 機能訓練指導員の給料
2020年2月に厚生労働省が発表した「介護従事者処遇状況等調査」によれば、機能訓練指導員の月の平均基本給は228,040円、平均年収は約430万円でした。
この数字は他の介護職員や専門職と比べると比較的高いほうで、機能訓練指導員は給与面での処遇も悪くないと言えるでしょう。
ただし、所有している資格や施設の規模、勤続年数、役職で給与額に若干の差が見られます。
施設によっては特定の時間帯で機能訓練指導員を配置しており、時給での求人を行なっている場合もあるため、雇用条件をしっかりと確認するようにしましょう。
7. 機能訓練指導員のキャリアアップについて
機能訓練指導員は、任用後のキャリアアップにおいても選択の幅があります。
医療や体に関する専門性と介護に関するノウハウは、さまざまな場面で活かせるでしょう。
■介護施設や事業所のリーダー、施設長
機能訓練指導員は他職種との連携を通じて、自身の知見を大きく広げていくことができます。
そのため、経験を積めば積むほど主任や課長などのリーダー的立場、さらには施設長になるというキャリアアップの道が開けるでしょう。
また、責任感が問われる分、高収入や充実感が得られます。
■独立して開業する
機能訓練指導員としての経験や知識は、独立の際にも役立ちます。
なかでも機能訓練指導員となった柔道整復師には開業権があるため、独立して整骨院を営むことが可能です。
また、開業権がない理学療法士や作業療法士、言語聴覚士の場合でも、法人のデイサービスは開業できます。
8. 機能訓練指導員の仕事に向いているのはどんな人?
機能訓練指導員は、治療や療養を狙いとする一般的なクリニックで働く有資格者とは違い、介護に関する深い知識と技術が求められます。
利用者が抱える身体的・精神的問題の改善や能力の減退防止を第一に考え、個々に適した機能訓練を行うことが大切です。
■主体的にリハビリ支援をしたい人
機能訓練指導員は介護サービスの根幹となるケアプランをもとに、利用者が必要とする内容を判断して、機能訓練の計画・実行を行います。
そのため、医師や看護師に利用者の情報を確認したり、介護職員から訓練後の利用者の様子を聞き取ったりなど、主体的に行動する力が不可欠です。
また、機能訓練についての専門的知識や技術、柔軟な発想力、対応力も要することを踏まえれば、ある程度キャリアを積んでいる方に向いている職業と言えるでしょう。
■利用者の方にしっかり向き合いたい人
機能訓練指導員は、利用者の身体や訓練の状態に応じて機能訓練を行います。
そのため、利用者一人ひとりに対して長い目で向き合っていかなければなりません。
利用者の悩みや希望に耳を傾けたり信頼関係を深めたりなど、個々を尊重できる方であれば、よりよい支援を実現できるでしょう。
■コミュニケーションをしっかりとれる人
機能訓練指導員が機能訓練の計画や実施をするには、医師や看護師、介護職員、生活相談員といった他職種との連携が欠かせません。
また、機能訓練指導員は他職種との連携が円滑に図れるよう、調整する役割も担います。
利用者にとってよりよい機能訓練を行うためにも、多くの人と関わり合えるコミュニケーション能力が必要です。
9. まとめ
機能訓練指導員は、さまざまな利用者を迎える介護施設において非常に頼れる存在です。
また、機能訓練指導員が手がける機能訓練は、施設を利用する方にとってもよい働きかけとなり、利用者自身でできることが増えた際には、互いに大きなやりがいを感じられることでしょう。
介護業界に就職をお考えの場合は、機能訓練指導員という職も視野に入れてみてはいかがでしょうか。