介護事故の事例から学ぶ防止方法|もし介護事故が発生したときの対応を解説
介護現場では、転倒や、誤飲、物の紛失といった事故が度々起こります。有資格者の対応であっても、どれだけ気を付けていたとしても、人の手が介在する以上事故は起こり得るのです。しかし、「仕方がない」で終わらせることもできません。
あまりに事故が多発すると、利用者やその家族から不信感を抱かれてしまう可能性も否めません。可能な限り事故を防ぎ、万が一起こってしまった際には誠実な対応をすることが求められます。
本記事では、事故が起きた際、職員や事業所が取るべき対応について解説していきます。併せて起こりやすい事故についても触れるので、未然に防ぐための参考にしてください。
1. 介護現場で起こりやすい事故とは
介護現場においては、事故は可能な限り防ぎたいものです。しかし、人の手が介する以上完璧に防ぐことは難しいでしょう。
最初に把握しておくべき点として、事故は職員の過失以外に、利用者側の不注意によって事故が起こるケースも見られます。
介護事故と聞くと、利用者の転倒やけがを想像する方も多いのではないでしょうか。しかし、それだけでなく大切な品物や愛用していたものの破損や紛失も、利用者に実害があったという点から介護事故とされるのです。実害という点がクローズアップされることから分かるように、利用者同士のけんかなども介護事故です。
このように一言で介護事故といっても、種類、含まれる範囲は多岐にわたります。言葉から想起されるイメージだけにとらわれないよう、起こりやすい事故の例について解説していきます。
■介護施設内での介護事故
【介護施設内で起こりやすい介護事故】 1. 転倒、転落 2. 誤嚥(ごえん)、誤飲 3. 送迎中の交通事故 |
起こりやすいのは、やはり施設内の事故です。施設内で過ごす時間が長い分、事故が起こる確率も高くなるといえるでしょう。中でも一番多い事故が「転倒・転落」です。平成30年に報告された介護労働安定センター「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業報告書」によると、転倒・転落事故だけで実に60%以上を占めています。
次いで多いのが「誤嚥・誤飲」「送迎中の交通事故」です。施設内では一般的な介護以外にも、利用者自身が参加するイベントなどもあります。移動頻度に伴い、転倒・転落事故も増えると考えられるでしょう。
■訪問サービス中の介護事故
【訪問サービス中に起こりやすい介護事故】 1. 訪問先の紛失や破損事故 2. 転倒、転落 3. 訪問中の交通事故 |
続いては、訪問サービス中における介護事故です。一番起こりやすいとされているのが、訪問先にある物品に関する紛失、破損事故です。介護施設ほど十分な広さがある家ばかりではなく、また介護に必要な手すりなどが設置されている確率が低いので、介護者が移動する際に事故が起こる確率が高くなります。
続いて訪問サービス中でも転倒・転落事故、訪問中の交通事故という順で多くなります。人身に関わる事故ではなく物損的な事故が多いと考えられるのです。
・転倒・転落
実際に起こっている事故の詳細についても触れていきましょう。具体的な例としては、以下の通りです。・排泄・入浴場面での転倒
・施設に訪れる際の、乗車・降車場面での転落
・利用者が一人で行動しようとした際に介助が間に合わない
多くの高齢者は足腰が弱り、身体バランスを保てなくなってしまう傾向があります。それでも一人で動けるという思い、周りに迷惑を掛けたくないという気持ちから自分だけで何とかしようと考えがちです。この気持ちとは反対に、実際には思うように体が動かないというギャップから、目を離した際の事故が多くなると考えられます。
・誤嚥(ごえん)、誤飲
誤嚥・誤飲事故が起こるのは以下のようなケースです。・加齢による唾液の減少・歯のトラブルで飲み込む力が弱くなっている
・イベント時などいつもと異なる食事のとき
・利用者の現状と合わない食事の提供があった
転倒事故よりは少なくなっていますが、死亡事故につながりやすい非常に危険な事故の一つ。利用者は、加齢などから飲み込む力そのものが弱くなっています。加えて、よくむせる人や食事に時間がかかる人、大きく口を開けるのが困難な人は誤嚥を起こしやすいのでより一層の注意が必要。自覚がなくても、嚥下障害を患っている場合もあるので、食事介助はより慎重な姿勢が求められるのです。 万が一誤嚥・誤飲事故が起こってしまった際の適切な対処法についても、定期的に職員研修などで見直す必要があります。
・交通事故
続いて交通事故について確認していきます。まず具体例としては以下のようになります。・施設への送迎時、バス運転手による事故
・施設への送迎時、家族による事故
・介護者宅への訪問時、介護者の運転による事故
こちらは介護事故の中でも少し特殊な位置付けといえるでしょう。慣れない道への運転や、送迎中に介護者のトラブルが起こった際など、そちらに気を取られて事故を起こしてしまうケースが見られます。一般的な交通事故として考えがちですが、場所が施設・利用者宅以外であっても、サービス提供中の事故は介護事故として扱われることを覚えておきましょう。
・利用者の所持品の紛失・破損
最後は所持品に関する紛失・破損事故について見ていきましょう。考えられるケースは以下の通りです。・介護時、利用者宅の物品を落として破損させる
・介護者宅への訪問時に車で門柱を破損する
・施設において利用者の所持品を紛失する
これら事故では人の命に関わる事態になることはまれです。しかし、物品の紛失や破損は、利用者が大切に思っているものが対象になる可能性も否めません。そのような場合、賠償問題に発展するケースもあるので命に関わらないからと、軽く考えることはできません。利用者の自宅のものは、うっかり壊してしまったり、紛失したりしないように細心の注意を払った上で取り扱いましょう。 無料会員登録はこちら
2. 介護事故防止のポイント
介護時における事故の可能性、具体的な例などを確認してきました。実際に起こりがちなケースなので、似たような場面に遭ってヒヤッとした経験を持つ方も少なくないでしょう。
人の手が介在する以上、どうしても事故は起こってしまうものです。しかし、利用者に快適な生活を送ってもらうことを考える介護者にとって、極力事故は起こしたくないのは間違いありません。ここからは介護事故を防止するため、また再発防止のため、どんなことに気を付けておくべきなのかという点から解説していきます。
介護事故防止の重要ポイントは以下の2点です。それぞれ詳しく見ていきましょう。<
【介護事故防止】 1. 事故を100%防ぐことは不可能であることを理解する 2. 事故事例を洗い出ししっかり共有する |
■事故を100%防ぐことは困難であると理解する
ここまでで何度か触れてきたように、人の手が介在する以上、事故を完全に防ぐことは困難だということを理解しておきましょう。介護者自身のミスはもちろん、利用者が自分で考えて動いた結果として事故につながることもあるでしょう。
それぞれが独立した考えを持つ人間だからこそ、行き違いや実力不足による事故を完全に防ぐことはできないのです。しかし、だから事故は起こっても仕方がないと考えてよいわけではありません。
特に、死亡事故につながる可能性のある誤嚥・誤飲や転倒事故は、事前の対策を講じることで予防可能です。危ないところはないか、安全配慮に抜けはないかと常に疑い考えることがポイントだといえるでしょう。
■事故事例を洗い出し、しっかりと共有する
事故を完全に防げないことをしっかりと把握した上で必要となるのが、実際に起きた事故事例を洗い出し、職員全員で共有することです。どんな事故が起こってしまったのか、なぜ事故が起きたのかをきちんと確認・検証することで事前に対策を取ることができるでしょう。
そして重要なのが、一部の介護者のみで事故事例や対策を把握するだけで終わらせないことです。より多くの職員と共有しておけば新しい対策もでき、同じような事故が起こる前兆に気が付く可能性も高くなります。「目」を増やすことができます。
普段から事故事例や起こりやすい事故のケース、ヒヤリハットを職員全体で共有することでより多くの気付きを得られるでしょう。ヒヤリハットを書き込めるノートや用紙を準備し、いつでも見られるようにしておくのも効果的です。定期的に過去のヒヤリハットを振り返ることで、再発防止はもちろん、注意力の向上や意識改善にもつながるでしょう。
3. 介護事故が発生した場合の対応
ここまで事故事例や予防について確認してきましたが、何度も触れるように事故を完全に防ぐことは非常に困難です。だからこそ知っておくべきこととして、介護事故が起こってしまった際の対応についても確認しておきましょう。
起こってしまった事故に動揺するのではなく、より迅速な対応を行うことができれば事故の被害を軽減することにもつながります。
・ 対象である利用者への対応
・ 説明が必要となる利用者家族への対応
・ 共有する必要がある関係職員への対応
必要になる対応は上記の通りです。それぞれについて解説します。
■利用者への対応
利用者への対応は主に以下の三つになります。事故が起こった際に動揺して何もできない、などということがないようしっかり把握しておきましょう。
・ 安全確保
・ 謝罪
・ 賠償
事故が起こった際、まず行うのは利用者の安全確保です。声掛けで意識の有無、けがの状態などを確認しましょう。続いて医師への連絡や救急車の要請など、必要な措置を行います。もしも意識がないといったように状態が悪い場合は、気道確保をはじめとする安全確保も必要です。
まずは利用者の身の安全を確保し、迅速に動くことで事故の被害を最小限に抑えましょう。利用者の安全が確認できた後は謝罪、賠償と続きます。謝罪は誠意を込めて行うことがなによりも大切です。状況の説明、今後の対策を含め説明しましょう。
■利用者の家族への対応
利用者の安全が確認できた後は、利用者の家族に連絡をしましょう。利用者家族への基本的な対応は以下三つになります。
・ 謝罪
・ 事故の状況を説明
・ 賠償
まずは謝罪を行い、事故発生の経緯、利用者の状態をいち早く伝えるなど誠実な対応が求められます。事故後の連絡が遅れると、介護者だけではなくサービスそのものに不信感を持たれてしまう可能性も否めません。したがって、できるだけ迅速な対応を心掛けましょう。
場合によっては関係職員を集めての謝罪、賠償が必要な場合もあります。まずは法的な根拠などは置いておき、誠実な謝罪が求められることを理解しておきましょう。
■関係職員への対応
最後は関係職員への対応になります。事故の当事者、発見者が行う対応は以下の三つです。
・ 事故報告
・ 状況説明
・ 再発防止の話し合い
まずは、利用者の安全を確保した後に事故報告をします。事故が起きた旨を知らせるとともに、場合によっては人手を集める必要もあります。事故発生時の利用者の状態や容態によって、報告については柔軟に対処しましょう。
状況が落ち着いた後は、責任者へ当時の状況に対する細かい報告を行います。併せて事故報告書の作成や必要に応じて、かかりつけ医、保険会社への連絡を行いましょう。
事務的な手続きを終えた後は、再発防止のため職員に事故を共有した上で話し合いを行います。話し合いの際には、状況と起こってしまった原因を詳しく分析し、防止するためにはどのようにすればよいかを職員全員で検討しましょう。
4. まとめ
利用者の安全な生活を助ける介護士の仕事はやりがいのある仕事ですが、同時に事故の可能性をはらんだ仕事でもあります。利用者の快適な生活を守ると同時に、介護者自身を守るためにも事故の予防は重要なポイントです。
予防するためには、事前にどんな事故が発生しやすく、なぜ起こってしまうのかを把握しておくことが大切です。その上で予防法や対応策を練り、少しでも事故の発生件数を減らしていきましょう。万が一事故が起きてしまった際には、事故後の対応によっても信頼関係に大きく影響をするため、誠意を持って対応しましょう。
よりよい介護で、笑顔があふれる介護現場にしていくためには、職員一人ひとりの自覚も大切です。職員同士で情報を共有し、施設全体で注意していくことが求められます。この記事を参考に、安全管理について見直していただけると幸いです。