精神障がいの方と一緒に働く上で必要な配慮とは?
障がい

2022年1月20日

精神障がいの方と一緒に働く上で必要な配慮とは?

 

*もくじ*

 

1.精神障がいとは…?


精神障がいとは、何らかの原因で脳の器質的変化や機能的障がいが起こり、精神症状・身体症状・行動の変化が見られる状態のことを指します。

障がいが見た目では分かりにくいこともあり、『甘えているだけ』『気合が足りないのでは?』など、周囲から理解を得られないことも少なくありません。

しかし、精神障がいは本人の気持ちの持ちようや本人の心がけの問題ではなく『脳の病気』なのです。
症状の変化に本人自身でも気づかないこともあります。
そのため、周囲の人がその人が抱えている障がいについて理解することが非常に重要となります。
▼精神障がいの患者の数は?

今、日本にはどのくらい精神障がいを持つ方がいるかご存じでしょうか?
内閣府が出している『令和3年版障害者白書』によると、精神障がい者の数は4,193,000人となっており、これは33人に1人は精神障がいを持っている計算となります。
精神疾患は誰もがかかる可能性のある、身近な病気であると言えるでしょう。

引用:内閣府『令和3年版障害者白書』を元に筆者作成
▼精神障がい者の雇用の状況

下の表から読み取れる通り、障がいを持つ方の就職件数は年々増加傾向にあります。(令和2年度を除く)
身体障がい・知的障がい・精神障がいの3種類の中でも、精神障がいの就職件数が最も多く、全体の約半分を占めています。また、精神障がいの就職件数の伸び率を見てみると、平成22年度の精神障がい者の就職件数が14,555件であったのに対し、令和元年度は49,612件と、およそ3.4倍上昇しています。

令和2年度が急激に減少した理由は新型コロナウイルスの影響と考えられています。要因としては、応募しやすい業種(製造・宿泊・飲食・小売り等)の求人の減少や求職者の就職活動の制限などが挙げられます。

引用:厚生労働省『令和2年度 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況などの取りまとめを公表します』を元に筆者作成

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2.主な精神障がいの疾患解説・配慮のポイント


⑴ 統合失調症

精神障がいの中でも患者数が多く、100人に1人弱がかかると言われている身近な病気です。思考や意欲・感情面などに障がいが出る病気です。本人の気分や行動に変化があり、それに伴って人間関係が悪化するなどの影響が出ます。

【主な特性】
◆陽性症状(健康なときにはなかった状態が表れる)
◎幻覚
・現実には何も起きていないが、本人が「悪口を言われた」と訴える
◎幻聴
・ぶつぶつと独り言を言っている
・誰もいないのに1人で笑っている
◎妄想
・現実には起きていないが「いじめを受けている」と訴える(被害妄想)
・現実には起きていないが「テレビが自分の情報を流している」と思い込む(関係妄想)
このような幻覚や妄想は本人にとっては現実で起きていると感じられているため、病気が原因と自分で気が付くことが難しいとされています。

◆陰性症状(健康なときにあったものが失われる)
◎意欲が低下する
・今まで好きだったことに興味を示さなくなった
・人と関わるのを避けるようになった
・身なりに気を使わなくなる、入浴をしなくなる
◎感情の動きが少なくなる
・他人の感情や表情についての理解が難しくなる
・疲れやすくなる など

【配慮のポイント】
◎幻聴・妄想等の症状がでる予兆を把握する
・睡眠時間が減ってきた
・薬を飲み忘れた
・思考がまとまらず、話が支離滅裂になる
・作業ミスが多い
◎本人の習熟度と体調に合わせた仕事をする
・疲れやすいため、短時間勤務を視野に入れる
・判断力、記憶力、理解力が総合的に必要な仕事は避ける

 

⑵うつ病

うつ病とは気分障がいの一つです。発症の原因は明らかになっていませんが、感情や意欲を司る脳の働きに障がいが生じているのではと考えられています。
うつ病の背景には、精神的ストレス・身体的ストレスなどのマイナス要素が背景にあるとされることが多いです。しかし、結婚や就職、進学、引っ越しなどの嬉しい出来事の後や環境の変化の後に発症することもあります。
日本ではおよそ100人に6人がうつ病を経験しているという調査結果もあり、とても身近な病気です。

【主な特性】
◆精神症状
◎ものの見方や考え方がマイナスになる
・1日中気分が落ち込んでいる
・表情がくらい、反応が鈍くなる
・自分を責めてばかりいる、死んでしまいたくなる
・何をしても楽しめない
◎反応が鈍くなる
◎飲酒量が増加する
◆身体症状
◎眠れない、過度に寝てしまう
◎食欲・性欲が低下する
◎胃の不快感、便秘、下痢
◎疲れやすい

【配慮のポイント】
◎不調時の対応方法、サポート内容を事前に確認しておく
◎定期的な面談を実施する
・生活リズム
・業務内容、業務量
・周囲との関係性 など

 

⑶ 双極性障がい(躁うつ病)

双極性障がい(躁うつ病)とは、気分が高まる「躁状態」と気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。
近年では、脳の中でも感情のコントロールに関わる部分(前部帯状回)の縮小が確認された例もあり、脳の病気ともいわれています。

うつ病と思っていても、極端に調子が良くなり活発になるときがある場合は双極性障がいが疑われます。
一定期間の「躁状態」が続いたのち、「うつ状態」になります。うつ状態だけの「うつ病」とは異なり、双極性障がいの場合は「躁状態」から「うつ状態」へ急激に変化します。そのため、落差が大きく、「うつ病」以上に急な精神状態の変化が及ぼすストレスが大きな負担になり、より強くうつ症状を感じることが多くあります。

【主な特性】
◎気分が高まる「躁状態」のとき
・気が大きくなる、自信にあふれる
・徹夜や睡眠時間が少なくても平気になる
・眠らなくても元気に長時間の活動ができる
・アイデアがたくさん生まれる
・よく考えず高額な買い物をしてしまう
・ギャンブルにお金を注ぎ込む
・長時間しゃべり続ける
・注意力散漫になる
・暴言を吐いてしまったり、危険な行動をしてしまう

「躁状態」のとき本人は気分が高まっているため、病気の自覚がなく、本人が気付かないうちに周囲を傷つけてしまうこともあります。

◎気分が落ち込む「うつ状態」のとき
・気分が落ち込む
・疲れやすい
・起きる気にならず、寝てばかりいる
・やる気がでない
・なかなか眠れない
・何をしても楽しめず、興味が湧かない
・死にたいと思う時がある

【配慮のポイント】
◎症状は本人の性格や性質によるものではなく「病気」ということを理解する
・今の状態が「躁状態」なのか「うつ状態」なのかを観察する
・周囲を困惑させてしまったとしても、本人を否定したり怒ったりしない
◎残業を避ける
「躁状態」の症状の一つに、疲れを感じにくく、自信にあふれていることが挙げられます。
躁状態の時は、無理をしてでも仕事を進めたくなるのです。
しかし、双極性障害のある方は、こうした気分の波をできるだけ減らすことが大切です。
◎規則正しい生活ができるような業務を与える
・自分のペースで進められる事務業務
・業務量を自分で調整できる業務
・作業に集中できる業務
・定期的な医療機関の受診が可能な環境

 

⑷ 適応障がい

適応障がいは、ストレスが原因で引き起こされる感情面や行動面の症状によって、本人の社会的機能(仕事・学校・家庭など)が著しく阻害されている状態を指します。ストレスの原因や程度はそれぞれ異なり、職場環境・生活上の出来事・人間関係などの日常生活で起こり得ます。本人がストレスに感じることも、他の人はそうでもなかったりしますが、日常生活の変化や出来事が本人にとって重大で、普段の生活に支障をきたすほど感情面や行動面、身体面での症状があらわれている状態といえます。

【主な特性】
◆精神・行動面
◎抑うつ、不安、焦り、怒り
◎行き過ぎた飲酒、暴食
◎無断欠席
◎無謀な運転、けんか等の攻撃的行動
◆身体面
◎動悸
◎汗をかく
◎めまい
◎緊張で手が震える
◎睡眠障害

【配慮のポイント】
◎ストレスの原因から離れる(ストレスの原因を把握する)
◎多忙が原因の場合、業務量を調節する
◎出社時間、座席の配置などの環境を調整する

 

⑸ てんかん

てんかんは、脳の一部の神経細胞が一時的に異常な電気活動を起こすことにより「てんかん発作」を起こす病気です。けいれんを伴うもの、突然意識を失うもの、意識はあるが認知の変化を伴うものなど、脳のどの範囲で電気発射が起こるかによって様々なタイプがあります。症状は基本的に一過性で、てんかん発作が終わったあとは元通りの状態に回復します。
原因や症状は人によって異なり、乳幼児から高齢者まで誰もが発病する可能性があります。

【主な特性】脳の電気発射の範囲によって異なる
◎全身のけいれん
◎意識を失う
◎一点を凝視して動作が止まって応答がなくなる
◎光がチカチカ光る
◎手がぴくぴく動く

【配慮のポイント】
◎誰もがかかる可能性があることを理解する
◎内服治療を行うことで、多くの人が一般的な生活を送ることができることを理解する
◎発作がコントロールされている場合は、過度に活動を制限しない

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3.雇用にあたっての企業側の課題


『平成 30 年度障害者雇用実態調査結果』によると、精神障がい者の雇用上の課題について、事業主の72.5%が「課題がある」と回答しています。
理由としては以下が挙げられています。
▼精神障がい者を雇用するにあたっての課題

 1位:会社内に適当な仕事があるか
2位:障がい者を雇用するイメージやノウハウがない
3位:従業員が障がい特性について理解することができるか
4位:採用時に適性、能力を十分把握できるか
5位:職場の安全面の配慮が適切にできるか

つまり、精神障がいを持っている方を雇用するには、雇用する企業側が上記の例をクリアする必要があるということです。

クリアをするためにはまず、本人の状況を正しく把握することが大切です。
精神障がいの方が定着し、長く能力を発揮していただくための第一歩として、初期段階(採用活動中など)で以下について、本人から確認しておきましょう。
▼本人・関係者から確認しておくべき項目

◎業務面:過去の経験
・就労経験
・訓練経験
・スキル、保有資格など

◎障がい面:障がいに関する経験
・障がい(診断名・症状・発症時期/状況・要因・経緯当等)
・特性(就業上での影響等)
・自己対処(体調・体力・ストレス管理・服薬管理等)
・配慮(時間・日数・業務量・スピード・環境・人間関係等)

 

4.職場でできる配慮とは…?


▼募集・採用のときにできる配慮

◎任せられそうな業務を抽出しておく
障がいを持つ方を雇用する際の企業の課題の1つに「任せる業務内容」が挙げられます。障がいの程度は人それぞれで、得意・不得意があります。得意なことを活かして雇用すれば、能力を発揮して活躍することは十分に可能です。
「この仕事は障がい者にはできないだろう」と決めつけず、まずは社内の全ての業務を棚卸しして、障がいがあってもできる業務と業務内容を改善することでできる業務を社内で検討してみましょう。

◎面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認める
精神障がいは原因となる疾患によって、それぞれの障がい特性や必要な配慮が異なります。個別の障がい特性などを正確に知ってもらうために、就労支援機関の職員が同席することで、企業の面接官と精神障がいの方との意思疎通を助けることができます。

◎入社前実習を利用する
企業が初めて障がい者を雇用する際には、一定の期間で『職場実習』を実施することもおすすめです。
採用前に実習を行うことで、「職場環境や業務に適しているか」「業務に必要な能力やスキルを持っているか」など、入社後に一緒に働くイメージを持つことができ、障がい特性の理解を深めることができます。

 

▼採用後にできる配慮

◎業務マニュアルを作成する
精神障がい者の中には、曖昧な状況にストレスを感じやすかったり、工夫・応用が苦手だったりする方がいます。そのような方に対しては、作業の流れや手順を決めて、できるだけ具体的かつ簡潔な指示を出せるように業務マニュアルを作成しておくと良いでしょう。

◎業務指導担当者を決めておく
障がいを持つ方が困る場面として『誰に質問していいか分からない』『人によって言っていることが異なる』ということがあります。
そのため、業務に関しての質問や相談できる担当者を決めておくと良いでしょう。
お互いに状況を把握しているので、コミュニケーションが円滑になります。また、担当者が定期的な面談や日誌のフィードバックを実施することで、本人の体調の変化や、必要に応じた配慮をすることができます。

◎本人にあった勤務時間と業務量を設定する
精神障がいのある方は「緊張しやすい」「疲れやすい」という特性を持っている方が多いため、知らず知らずのうちに疲労を溜めてしまいがちです。スムーズな職場定着のためには、本人に合った勤務時間と、業務量を設定することが重要です。
【例】
・通勤ラッシュを避けられるように出勤時間を遅らせる
・過集中の傾向があるため、少ない業務量から始め、段階的に業務量を増やす
・本人と定期的に業務内容・業務量について確認する

◎休憩時間・休暇・通院について配慮する
障がいの特性によって、体調に波があることや、通院・服薬が必要になることがあります。その場合は、状況に合わせて適切な配慮を行うことが必要です。
【例】
・休憩時間を分割する(60分 → 45分+15分 など)
・規定外の休憩時間を設ける
・本人がリラックスできる自由な場所(車の中、外出等)での休憩を認めている
・通院日には休暇を認めている

出典:厚生労働省『合理的配慮指針事例集【第三版】』

5.まとめ

いかがでしたか?精神障がいは同じ障害でもその特性は1人ひとり異なります。
見た目ではわかりにくいため、周囲から理解されないままトラブルに発展してしまうこともあります。

ジョブコーチや就労支援機関などの外部機関のサポートを求めることも可能です。
周囲がその人の障害と特性を理解し、必要な配慮をすることで、精神障がいを持つ方が職場に定着し、力を発揮することができるようになります。

セントスタッフでは色々なスキルを持った障がい者の方も登録いただいております。
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